シンポジウム「新しい老活」
第2部 パネルディスカッション:未来の老活戦略〜健康寿命を伸ばす科学的アプローチ〜
モデレーター:川原理沙(医療ジャーナリスト)
パネリスト:
- 茂木賢治朗(帝栄学館大学・教授)
- 三千院明(帝都大学・教授)
- 鈴村孝一(京浜医科大学・老年医学研究センター長)
- 杉山紗英(栄養学博士、アンチエイジング研究者)
川原:「それでは、第2部のパネルディスカッションを始めてまいります。テーマは『未来の老活戦略』です。まずは茂木先生にお伺いしたいのですが、老いを細胞の観点から見たとき、私たちにできることは何でしょうか?」
茂木:「ありがとうございます。細胞というのは、“日々の暮らし”そのものにものすごく敏感なんです。睡眠、栄養、運動、それから人との関係──こうしたものがすべて、細胞の活動に影響を与えている。つまり、“老い”という現象も、見えないところで日々、静かに積み重なっているんです。」
三千院:「つまり、今この瞬間の積み重ねが“老い”をつくっている、と?」
茂木:「はい。そしてもう一つ重要なのが、“自分のためだけの行動”と“他者に向けた行動”の違いです。最近強く感じているのは、“自分だけが幸せになろう”とする生き方は、むしろ老いを早めるということ。たとえば、いくら体に良いサプリを摂っても、周囲とのつながりが断たれてしまっていれば、細胞の働きは鈍くなるんです。」
杉山:「それって、孤独が体に悪いっていう話とも通じますよね?」
茂木:「ええ。人間の細胞は、内と外をつなぐ“窓”を持っていて、その窓が閉じると、機能が一気に落ちるんです。逆に、他者との関係が活発な人は、その“窓”が開いたままだから、細胞がちゃんと周囲の刺激を受け取れる。だから私は、“老活”とは、細胞の窓を開け続ける工夫だと思っています。」
鈴村:「なるほど……まるで、細胞が社会と会話しているような感じですね。」
茂木:「そうなんです。実際、細胞同士も常に“会話”しているんですよ。タンパク質やイオンのやりとりって、まさにそれですから。人間も同じで、他者と情報や感情をやりとりしている人の細胞は元気なんです。」
川原:「そうすると、“老活”というのは、単に栄養や運動の話だけではないということですね。」
茂木:「まさにその通りです。私はいつも研究室の学生にもこう言います。“来世を考えて生きろ”と。」
三千院:「……え、それは宗教的な意味ではなく?」
茂木(苦笑しながら):「いえいえ、もちろん比喩ですよ。ここでいう“来世”というのは、“次の時代”とか“自分の行動がもたらす社会的波紋”のことです。目の前の自分だけで完結する行動は、たいていすぐ限界がくる。継続できないんです。でも、“来世を意識した行動”──つまり、次の世代や他者の未来につながる行動というのは、本人にも自然な活力を生み出します。そういう行動は、結果的に“老い”にブレーキをかけるんです。」
(会場、頷く参加者多数)
ありがとうございます。それでは、シンポジウム「新しい老活」第2部・パネルディスカッションの後半を書き起こし形式で続けます。
川原:「非常に深いお話ですね。“来世を考えた行動”が、結果的に自分の細胞も救う……。では、その“継続”について、実際にどうすれば良いのでしょう? 今日来られている一般の参加者の方々が、日々の生活でできることは?」
茂木:「まず大事なのは、“義務”ではなく、“楽しみ”として何かを継続できる環境を作ることです。運動でも、料理でも、ガーデニングでもいい。“これをやっていると、少し誰かが笑ってくれる”とか、“誰かと話題を共有できる”といった、人とのつながりが生まれる要素を加える。それが継続の原動力になります。」
杉山:「私もそれは実感があります。栄養指導で“タンパク質をとりましょう”って言うだけでは続かないんです。“じゃあ何を作ったら家族が喜ぶか”という視点を入れると、皆さん一気に意欲的になる。」
三千院:「エピジェネティクスの観点でも、そうした“環境刺激”が遺伝子の働き方を変えるというデータが出ています。孤独よりも会話、受け身よりも行動、それが遺伝子のスイッチを変えるわけです。」
鈴村:「うちの病院の通所リハでも、地域との“おせっかい交流プロジェクト”を始めたら、参加者の歩数が増えたんですよ。これ、薬じゃ無理でしたから(笑)」
(会場笑い)
茂木:「私、こう思ってるんです。“老活”って、最終的には“誰かに必要とされる”って感覚を持ち続けることだと。
そしてそれは、見返りを求めない小さな“貢献”の積み重ねです。“自分だけが良くなる”ことは、長い目で見たら老化の種になる。
逆に、“ちょっとした世話”“ちょっとした声かけ”が、自分の内側のエネルギーを作る。それが細胞に伝わって、若さを保つ。」
川原:「その“ちょっとしたこと”が、社会や次の世代につながっていくと……」
茂木:「はい。そして、それは“すぐに成果が出なくてもいい”という気持ちも必要です。カーラの研究だって、何年も地道にやってきて、ようやく臨床応用に向けた流れができてきた。でも、それを途中でやめてしまったら、未来の誰かに届けられなかった。」
三千院:「カーラって、言ってみれば細胞が“もう一度頑張ってみようかな”って思えるようなきっかけなんですよね。」
茂木:「おっしゃる通りです。私たちの身体の中には、まだ立ち上がろうとしている細胞がたくさんいる。
それを信じて、支えるような行動が“老活”の本質だと思っています。」
川原:「ありがとうございます。では最後に、一言ずつ、“これからの老活”に向けてのメッセージをお願いします。」
杉山:「“老い”を恐れないこと。自分の中の“変化”に気づき、それと一緒に歩いていくことが大事だと思います。」
鈴村:「医療も介護も、支える側も“老い”ます。一緒に笑える関係づくりが、きっと最高の予防策になります。」
三千院:「研究者として言えるのは、“遺伝子は変えられる”という事実です。行動が未来をつくると信じて、ぜひ一歩を踏み出してください。」
茂木:「自分の幸せの中に、誰かの幸せを入れてください。
来世を考えた行動を。
そして、続けてください。継続しないと、細胞も、心も、老いてしまいます。
私たちの“老活”は、未来への投資です。」
(会場拍手)
