密林の魔女 ランダ伝説

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バリ島の南東に浮かぶペニダ島。そこは神々と精霊が交錯する神秘の地であり、太古より人々の畏怖と信仰を集めてきた。だが、この島の密林には恐れられる存在がいる。 鬼女ランダ ――密林の主にして、夜の闇を支配する悪しき魔女である。

密林の主、夜に徘徊す

ランダは昼の光を嫌い、夜の訪れとともにその姿を現す。月の光が木々の隙間からこぼれ落ちると、ランダの影が密林の中をさまよい始めるという。 彼女の足音は葉のこすれる音とともに響き、気配を感じた者はすぐに家の扉を固く閉ざすのが習わしであった。

だが、時折、ランダは密林を越え、人里へと降りてくる。 それは、村に災厄が訪れる前触れであった。

黒魔術を操る鬼女

ランダの左手は 呪いを編む手 である。彼女は古の黒魔術を自在に操り、村人たちに病を植え付け、苦しみを与えた。ランダの呪いを受けた者は次第に体が衰弱し、やがて息絶えるか、正気を失ってしまうという。祈祷師たちは必死に護符を掲げ、聖水を撒いて村を守ろうとしたが、ランダの力はそれを嘲笑うかのように強大であった。

人々は口伝でこう語り継ぐ。
「ランダの呪いを解くには、彼女の左手を切り落とさねばならぬ」
だが、その手に触れようとした者は、すべて帰らぬ者となった。

死体を貪り、悪魔の卵を産む

ランダは 死体を喰らう魔女 でもあった。埋葬後の遺体を掘り起こし、血と肉を貪り食う。彼女は腹を満たすと、やがて自らの体内で邪悪な黒い卵を産み落とす。それは 悪魔の卵 と呼ばれ、孵化すると彼女の眷属となる恐るべき鬼を生み出すという。

あるとき、ある村の若者が森の奥で ランダが死体を貪る姿を見た という。ランダは喉を鳴らしながら血に染まった牙を剥き、若者をじっと見つめた。若者は全速力で逃げ出したが、数日後には原因不明の高熱に倒れ、苦しみの果てにこの世を去った。それ以来、村人たちはランダの名を口にすることすら恐れるようになった。

高僧ダラムペットの封印

ランダの横暴に耐えかねた村人たちは、ついに 高僧ダラムペット に助けを求めた。ダラムペットは聖なる経を唱え、聖水を携えて密林の奥へと進んだ。 彼は村人たちにこう言った。
「夜になるまでに終えなければならぬ」
そうして、ランダが潜む洞窟へとたどり着いた。

ランダは激しく抵抗し、黒魔術を駆使してダラムペットを呪い殺そうとした。しかし、高僧は怯まずに聖なる経を唱え続けた。すると、ランダの左手から煙が立ち上り、苦しみの声を上げる。 最後に彼女は 「穢れが再び目覚めさせる」 という言葉を残し、洞窟の奥深くへと封じられた。

以来、ランダの姿を見た者はいない。しかし、嵐の夜や月の満ちる晩になると、密林の奥から かすかな嗤い声が聞こえる という。それは、封印の奥でなおも機会をうかがう 密林の主の嘲笑 なのかもしれない。

― ペニダ島に伝わる鬼女ランダの伝説 ―













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