記録003

記憶用資料


1975年7月10日 – 長老からの話

スカマデ村に戻った後、我々は村の長老からティルタ・アムルタ寺院について詳しく聞くことができた。この寺院はタマンサリ・レワ密林の奥深く、割れ門(チャンディ・ブンタール)を越えた先の洞窟内に存在している。通常、外部の人間が立ち入ることは許されず、年に数回、選ばれた信者のみが巡礼のために訪れるという。

「あの寺院には、戦争が終わった後も残った日本人がいる。」

長老は静かにそう語った。村の人々は彼らを「ランガ族」と呼び、決して干渉しようとしない。彼らは密林の奥で、外部とは異なる価値観のもとで生活しているのだという。


ティルタ・アムルタ寺院の伝説

長老によると、その寺院は「アムリタ・スリンガ」と呼ばれる石灰岩の洞窟内に築かれている。かつて密林の魔女を封印したと語られる遺跡を改修して作られた。

更に洞窟の奥には「輪廻の湖」と呼ばれる地下水が湧き出す場所があるとされている。水は驚くほど透明で、底の石まで見通せるほどだ。この湖は秘儀が行われる神聖な場所であり、一般の人間は立ち入ることは許されない。

さらに寺院の周囲にはノニの木をはじめとする薬草が自生しており、ここで採取した植物は特別な治療効果を持つとされている。これが森の隠者の生活を支えているのかもしれない。


戦後に残った日本人の存在

私が最も興味を引かれたのは、「密林で暮らす日本人」の話だった。彼らは何らかの理由で戦争終結後もペニダ島に留まり、今なおティルタ・アムルタ寺院の奥で暮らしているという。長老によると彼は高位の存在で、外部の人間とほとんど接触を持たず、密林の資源だけで生きているのだという。

「彼らは時折、寺院を降りてくる。しかし、必要以上に言葉を交わすことはない。」

村人は彼らが独自の信仰を持っていると考えており、無闇に近づこうとはしない。彼が本当に日本人なのか、それとも密教の修行僧なのか、真相は長老もはっきりとは知らないようだった。

しかし、長老が語ったある言葉が、私の興味をさらに掻き立てた。

「彼は、もう帰る場所がないのだ。」

この言葉が意味するものは何か。日本へ帰ることを拒んだのか、それとも帰ることができないのか――。

いずれにせよ、私はこの寺院とその奥に隠された秘密を、この目で確かめる必要があると感じた。

1975年7月15日 – ランガ族との接触

スカマデ村での調査を続けていると、幸運にも年に数回しか村へ降りてこないというランガ族の一団に出会う機会を得た。彼らは寺院のある密林の奥で生活している少数の人々で、外部との接触は極めて限られている。

長老によると、彼らは特定の儀式の際に必要な供物を求めて村へ訪れることがあり、その際に最低限の物資を交易することもあるという。彼らの姿は我々とそう変わらなかったが、長い髪を結い、褐色の肌に伝統的な布をまとっていた。その表情は静かで、余計な感情を表すことをしない。

私たちはワヤンを通じて彼らに話しかけ、日本から来た研究者であることを伝えた。すると、一人の男が族長へこの件を相談するため、しばし待つように言い残し、密林の奥へと消えていった。

数時間後、彼が戻り、族長の許可を得たことを告げた

「数日後、あなたたちは寺院へ入ることが許される。しかし、誰でも行けるわけではない」

寺院へ入ることを許されたのは、私と分子生化学の研究生1名、合わせて2名のみだった。ワヤンも同行を希望したが、族長は「外部の人間の人数が多すぎると場の秩序を乱す」とし、最小限の人員に制限した。














94/133(LV7)