審議録

対象者:森垣 正志(36歳)
【面接冒頭】
担当者A:森垣さん、本日はお時間いただきありがとうございます。では早速、今回の治験に応募されたきっかけを教えていただけますか?
森垣:(組んだ腕をほどかず)
ええ、単刀直入に言えば「条件が面白かったから」ですかね。37日間、豪華客船、90万円、監視付きで健康管理してくれる──そんな案件、他にあります? ある意味で、人生の実験になると思ったんですよ。
担当者B:なるほど。非日常的な環境への興味、ということですね?
森垣:(うなずきつつ)
“非日常”というより、いかに自分が「普通」を超えているか、試す機会だと思いました。そもそも、こういう制度に乗るような人間の心理構造がどうなっているのか、客観的に観察してみたかった。もちろん、報酬も合理的ですし。
【基本情報確認】
担当者A:現在のお仕事について伺ってもいいですか?応募書類では「フリーランス」とありましたが…。
森垣:ええ、自称SEOコンサルタント。というと胡散臭く聞こえるかもしれませんが、それなりに検索順位をいじる手法は理解してますよ。報酬は…まあ、あまり期待されないほうがいい。
担当者B:クライアントとのやり取りなど、お仕事上での人間関係にストレスはありますか?
森垣:(鼻で笑うように)
ストレスって、相手に期待するから生まれるんですよ。私は極力、他人には何も期待しませんし、基本的に“言葉”で優位を取れるので、無駄な争いはしません。
担当者A:今回のような長期間の集団生活では、一定の対人協調も求められます。その点について、不安や懸念はありますか?
森垣:不安はありません。むしろ楽しみですね。
他者と無駄に馴れ合わず、ルール内で最大限に“観察する側”に回れるのは貴重ですから。こちらから関与するつもりは一切ないです。構ってもらわなくて結構。
【家族・生活状況の確認】
担当者B:森垣さん、続いてご家族とのご関係について少しお伺いします。現在、何か連絡を取っているご親族はいらっしゃいますか?
森垣:(即答)
いません。両親とは10年以上、姉とはもっと長いですね。
彼らに連絡する必要性はありませんし、されたくもありません。
担当者A:乗船中、緊急連絡先が必要になる場合がありますが、それについては…
森垣:(被せるように)
書類上の形式として名前を挙げることは可能ですが、実質的な意味はないと思ってください。
その点が障害になるなら、契約の再考をしていただいても構いません。
担当者B:(やや間を置いて)
日常生活において、たとえば友人や同業の知人と情報交換されたり、相談されるようなことは…?
森垣:(首を傾げて)
“情報”は拾うものです。交換や共感を前提にした関係には意味を感じていません。
私は誰かの承認がないと存在が揺らぐような人間ではないので。
【健康状態の確認】
担当者A:健康面に関して、現在通院中の病院や服薬中のお薬はありますか?
森垣:ありません。病院は時間の無駄です。
体調不良もありますけど、それを理由に行動を制限するほどのことは起きていません。
担当者A:以前、大きな病気をされたり、精神的に参った経験は?
森垣:(一呼吸おいて)
精神的に、というのは曖昧ですね。誰もが毎日“崩れて”いる。
それを病気と呼ぶ人もいれば、思考の過程とする人もいる。
私は後者です。自分の「思考の乱れ」を、他人に委ねたことはありません。
担当者B:(慎重に)
不安や怒りを感じた時、どんな風に整理されていますか?
森垣:(わずかに笑いながら)
書きます。喋りません。
“文字は精度が高く、口は誤解を生む”。これは私の持論です。
担当者A:それは面白いですね。では、船内でも日記や記録を残すご予定は?
森垣:当然。むしろ、船という閉鎖空間が“自然観察エリア”としてどう機能するか、検証したいと思っています。
【面接官所見】
- 家族・交友関係:完全な断絶・孤立を自己肯定的に受け入れており、連絡網としての機能は持たない。
- 感情の処理手段:言語化・論理化への依存が強く、対人による調整機能は希薄。
- 精神的耐性:一見して自律的だが、刺激が過剰に蓄積した場合の臨界点が読みにくい。
- まとめ:閉鎖空間での孤立そのものは問題視しないが、他者との非言語的接触(視線、気配など)への反応性に注意が必要。
